ピカソ『ゲルニカ』、1937年制作、349x777cm、現在はプラド美術館(スペイン)が所蔵
「ゲルニカ」の静けさは同じものではない。ここでは表情自体はあらはで、苦痛の歪みは極度に達してゐる。その苦痛の総和が静けさを生み出してゐるのである。「ゲルニカ」は苦痛の詩といふよりは、苦痛の不可能の領域がその画面の詩を生み出してゐる。一定量以上の苦痛が表現不可能のものであること、どんな表情の最大限の歪も、どんな阿鼻吸喚も、どんな訴へも、どんな涙も、どんな狂的な笑ひも、その苦痛を表現するに足りないこと、人間の能力には限りがあるのに、苦痛の能力ばかりは限りも知らないものに思はれること、・・・・・
かういふ苦痛の不可能な領域、つまり感覚や感情の表現として苦痛の不可能な領域にひろがってゐる苦痛の静けさが「ゲルニカ」の静けさなのである。~ Y社の駐在員として8年間ドイツに住み、6回目の夏休み(1982年)を利用して車でスペインを旅行した。その時マドリッドで『ゲルニカ』を見たことがある。プラド美術館の外に設けられた仮設の展示場で、入口には銃を持った兵士が警備するというものものしさがあった。
- POSTED at 2021年02月14日 (日)